<日本山岳会120周年記念事業>カナダ・Mt.Alberta3619m遠征

    大野雅樹

    日本山岳会120周年記念事業で実施されたカナダ遠征に参加してきましたので報告させていただきます。

    日程 : 2025年7月19日〜7月31日

    19日成田-カルガリー-キャンモア
    20日キャンモア
    21日ジャスパー記念式典参加-ヒントンの宿、食料買い出し
    22日入山〜アルバータhut
    23日A隊ルート工作B隊荷上げABC設営
    24日A隊アタックのちビバークB隊hutにてレスト
    25日ABC、ロープ回収後hutまで
    26日レスト日
    27日下山〜キャンモア
    28日クライミングやレスト
    29日クライミングや登山
    30日キャンモア-カルガリー
    31日成田

    Mt.Alberta はカナダのアルバータ州にある。1925年日本山岳会の初の海外登山となった、槇有恒をリーダーとする6名とスイス人3名の合同隊が初登頂に成功した。

    それから100年、交通網は整備され、天気も予報でき山道具は高性能化軽量化を重ねた現在、登りに行ってきました。

    21日 ジャスパー記念式典参加-ヒントンの宿、食料買い出し

    入山日前日には、麓の街ジャスパーにてカナダ山岳会の方々からアルバータ登頂100周年記念式典に招待していただき、皆でアルバータの登山史を振り返り、現地の方や75周年に登られた隊員の方ともご挨拶をさせていただきました。皆様からエールをもらい日本では想像もつかないくらいの人に祝われての門出となりました。

    アルバータ登頂100周年記念式典に出席する隊員たち

    アルバータにまつわる銀のピッケルのストーリーは学習院大学山岳部(山桜会)に詳しくありますので是非ご覧ください。

    その夜、宿で食料や共同装備の重量分けを終え分担を決めていたらガス缶がないのに気づく!装備担当だった完全な私の所為で慌てて近くの閉店間際のホームセンターまで買いに行く。その間谷さんはカルガリーにいた安食さんにも念の為連絡し、ガス缶を用意してくださった。ありがとうございます。流れの読めない陳列と看板を早足で探し回りなんとか見つかった。無事に帰り、皆と谷さんとの話し合いをし、入山前夜の楽しいディナーを済ませた。

    出発を前にギアのチェックをする

    22日 入山〜アルバータhut

    ヒントンから1時間。High way N93の駐車場に着くと、今回撮影を担当してくれる安食さんと合流する。カナダでハイキングガイドをされており、一年来の久しい再会となった。

    さあついに入山! だが路肩には白い雪。車の温度計でも1〜2℃を指していた。真夏のカナディアンロッキーに降雪。ここ2年の夏のカナダは比較的安定して晴れてたのだが、今回は不安定のよう、これもあの雨男山上の力なのか。

    とはいえ、青空は広がっているし進むことにする。今からなんといっても今日の核心、アサバスカ川を渡渉するからだ。氷河が溶け出す川を渡るなんて、人生でするとは思わなかった。皆それぞれの渡渉アイテムを持参した。沢足袋、ランニングシューズ、ビーサン+スリング…?  谷さん安食さん曰く、氷河の氷が溶け出すのは太陽が出てからなので、早朝の方が良いとの事。確かに、みんなで渡ったからそこまでと感じたのか?冷たいけど、出来ないほどではなかった。人に、装備によるが。

    その後は、森の中に薄ら残る道を支流沿いに行ったり来たりしながら進む。標高を上げるにつれ今朝の降雪が現れ、山上さんは下り調子になってきた。事前の富士山トレーニングでも高山の影響を受けやすい体質のため、辛そうだった。今回も薬も飲んでるとのことだったが、明らかに悪そう。ゆっくりペースで進んでもらう。

    美しい針葉樹林の中、標高を上げていく

    ガレ場の上っ面に乗った雪は歩きやすそうな足下を隠してしまい、安定しない石を踏ませ体力を奪っていく。谷さんはそんな悪い登り区間全ての先頭を歩き続けてくれました。

    コルに出るとアルバータ3619mが姿を現した。

    その手前には今日から世話になるアルバータハット2940mが見えた。この小屋が外見のコンパクトさからは想像出来ないほど快適で素晴らしく、再建を実行したカナダ山岳会、日本山岳会の先輩には感謝の気持ちを伝えたいです。

    快適で素晴らしい山小屋・アルバータハット(写真中央が大野)

    登山口から約8時間で到着。中は多少ネズミの糞が見当たるくらいで少し掃除すれば良さそう。夜も迫ってきていたので休む間もなく、水汲みに行く者、掃除する者、ご飯を作る者、タバコ吹かし頭痛を紛らわす者と別れて動く。入山祝いとして1人一枚の豚肉ステーキとアルファ米、スープと海藻サラダと豪華な夜飯を食べた。

    後片付けを終えると組分けの発表があった。

    fixを張りルート工作しアタックするA隊には谷、宮地、高橋、草野、中畑。

    テント、ギアを荷上げABC設営し、一度小屋に戻り張ってもらったfixを使用しアタックするB隊は松原、平野、山上、中田、大野となった。

    23日 A隊ルート工作B隊荷上げABC設営

    翌日A隊は夜明け前に出発し、双眼鏡を覗くとアルバータの裾を登り始める姿が見えた。

    我々B隊も食事を済ませ、荷物を持ち出発する。小屋は岩棚の上に位置しており、一旦下降して平坦なガレ場を進みアルバータに向かうのだが、歩きやすいルート取りをしたいが難しい。A隊か、過去の登山者のケルンが時々見つかるので我々も途中にケルンを作りながら忠実に辿る。

    傾斜の強い積み木状の岩登りや少しの振動で発生する砂利雪崩に苦労しながら短い雪渓を登り、ABC設営予定の2920mに4時間かけて到着した。設営と休憩で1時間ほど滞在して小屋に帰った。A隊はABCより上部のルート偵察と3ピッチfixをした。

    積み木状の岩に苦労する

    24日 A隊アタックのちビバークB隊hutにてレスト

    小屋にて2時間おきの無線連絡からA隊の様子を伺う。昨夜の雨はあがりA隊は3時に行動開始した。無線を聞くに、谷草野中畑グループと宮地高橋グループに別れて登っており、ルートの状態は雪が残り悪いがメンバーのコンディションは悪くなく何とか進んでいるとの事。12時の交信では稜線まで残り15m。中畑は疲労困憊のためジャパニーズクーロワールを越えた稜線のラペルステーションにて待機。14時の交信では、稜線から1ピッチ登った、全員が疲労を見せてきている、この後は無線を開放とのこと。タイムリミットの15時を少し越えた、16時19分谷草野が到頂したと連絡がきた。後続は目視出ないとのことで連絡を待ったが来ず、時間切れとなったよう。ハットでは次第に天候は雨からみぞれ、雪となり、雷が鳴り出した。日没を過ぎても懸垂下降は続き、23時ごろビバークとなったようだ。

    登攀ルート

    25日 ABC、ロープ回収後hutまで

    A隊4時行動開始。無線より懸垂下降のロープ回収の際、中畑が数m滑落し足を捻ったが谷宮地の補助を受けて行動している、なんとかABCまでは降りると。しかしABCより下まで降りることは不可能、救助要請することになった。

    我々B隊の中でサポートをしに松原平野山上大野がABCへ食料を持って向かい、中田安食はiPhoneのSOSによる救助要請とA隊B隊との連絡係をする。

    2日前4時間かかったところを2時間でABCに到着する。山上さんはこのハイペースのおかげで途中気持ち悪くなり吐いていたが。

    10時30分 ABCに到着するも姿が見当たらないのでまだ降りてきていないのだろう。無線連絡をするとロープを残置している為、回収しに行くことに。松原大野で上に少し向かうと声が聞こえ、高橋、草野が降りてきた。足取りは軽いものの疲れ切った表情をしていた。持ってきた行動食とスープを渡し、上を目指す。すぐに宮地と補助ロープで介助されてる中畑と谷が降りてきた。3人にも食べ物を渡し、宮地中畑を待機させ、ロープの在処を知っている谷さんと松原大野でロープ回収に行った。途中際どいクライムダウンもあり少しビビったが、30分ほどで戻り、ABCに15分ほどで降りた。

    救助要請をしたが、今日中にピックアップしてもらえるか分からない為、谷大野は中畑と一緒にABCのテントに残った。

    すぐにヘリはやってきてくれたがABCがちょうどガスに巻かれてしまい、ヘリは一度アルバータとハットの間の平らな大地に待機してくれた。ヘリと無線交信をし、中畑の病院やその後の世話をしてもらうのにハットにいる安食さんも一緒にピックアップしてもらう事となる。

    時間が経つほどガスは濃くなる。一瞬、大地が見えたりするが、寒くてずっと外を見ておれずテントに閉じこもる。だんだん今日はピックアップしてもらえないのでは?それどころか明日も分からない。と喋っていたら、安食さんからABC見えます!と連絡が入る。急いで谷さんからヘリに無線連絡をすると、ヘリのプロペラがまわり始め、同時に谷大野もハットまで乗せてくれるときた!

    まさに地獄から天国の気分で慌ててテントを片付けパッキングを済ませると、ヘリがABCの少し下の平らな場所に片足乗せ半分ホバリングの状態で無事に回収してくれた。

    5分も経たずにハットに着き、安食さんと交代してヘリは飛んで行った。

    歩いて下山したメンバーも少し前にハットに到着したらしく、中田くんが大量に作ってくれた水で皆でラーメンを作り、たらふく食べた。

    翌日は下山も出来たが、泊まる宿も取ってないし、疲労が溜まってるのでレスト日とした。

    下山、クライミング、帰国まで

    26日 レスト日となった。みんなで朝から夜までファイブクラウンというトランプゲームで遊んだ。高橋さんはアクティブレストだと言ってハットの横にあるリトルアルバータを7時間くらいかけて一周していた。

    27日 ついに下山日。お世話になったハットを来た時よりも綺麗に片付け、もと来た道を6時間ほどかけて帰った。

    キャンモアの宿にて中畑、安食さんと合流して皆の無事?谷草野の到頂を祝った。

    28日 この日は自由行動。高橋平野大野は近くのグラッシーレイクで遊んだ。平野さんは際どい10cも楽々登り、自分も負けじとギリギリFL成功。高橋さんは見るからにボロボロの体だが疲れてないと言い張り、念願のA bold new plun11aをやるも、見事に惨敗。

    29日 この日も自由行動。宮地さんを誘い、キャンモアから30分ほど東にあるヤムナスカのGrillmair Cimney 8pに向かった。駐車場を6時に出発し、急登のアプローチで汗だくになり、右往左往しながら無事に取り付いて昼前にはトップアウトした。終始ボロいが最終ピッチは穴の中から稜線に抜ける楽しいルートだった。

    稜線からもキャンモアへの平野が見渡せて最高の景色だった。

    30日 谷さんに借りた共同装備を返しカルガリー空港へ

    31日成田着それぞれ帰途へ

    アルバータ遠征隊メンバーと

    今回のカナダMt.Alberta遠征には日本山岳会の皆様から多大なご支援をいただきました。また個人として応援してくださった方へも、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。今回のつながりを大切にし、今後も日本山岳会とカナディアンとの交流が続いたら嬉しいと思います。