八ヶ岳登攀中山尾根と小同心クラック (個人山行)
【日程】2021年3月18日~2021年3月20日
【行程】
17日 18:00広島発=翌3:30美濃戸
18日 7:15赤岳山荘-9:00赤岳鉱泉-取付偵察ー12:00赤岳鉱泉(テン泊)
19日 4:50赤岳鉱泉-中山尾根取付-6:25登攀開始-9:00稜線-日ノ岳-横岳-小同心・大同心偵察-
12:00赤 岳鉱泉(テン泊)
20日 5:40赤岳鉱泉-7:35小同心クラック取付-7:50登攀開始-10:00横岳-大同心偵察-13:30赤岳鉱泉-
17:45撤退開始-18:50赤岳山荘=翌21日3:30広島着
【参加者】2名
【登山概況】 リーダー(Y・O)
4人で西中国山地を3泊4日大縦走をする予定で空けていた日程だったが雪不足の為、八ヶ岳遠征と変更とした。今シーズン、大山で一緒にトレーニングした4人で最後、八ヶ岳でシーズンを締めたかったが遠距離になった為、安松、田中が調整ができず残念だったが仕方ない。八ヶ岳は4年前の無雪期に稜線を縦走し行者小屋や赤岳鉱泉を通ったが余りの人の多さに良いイメージがない山の1つだったが、シーズン最後に厳しい寒さを経験しておきたいという気持ちと夏に縦走をした時に心に焼き付いた岩壁を登ってみたいという気持ちから八ヶ岳を選んだ。長距離運転は2人とも余り苦ではなく、諏訪の24時間スーパーで3日間分の買い出しをして八ヶ岳山荘のある美濃戸口に3:30頃に着いた。暗闇の中、1人の登山者のヘッデンが見える。ここから赤岳山荘駐車場までの酷道が最初の核心、金属チェーンを付けなければ四駆のスタッドレスタイヤでも厳しいとの情報、暗闇の中でチェーンを付けるのもイヤなので明るくなるまで安定した場所で待とうかとも考えたのだが流行る心は抑えられず危なくなる前にチェーンを履こうと決め漆黒の林道に進入する。少し走ると先ほどの登山者が歩いていた。「乗っていかれますか?」と声を掛けるとすぐに後部座席に入ってきた。60代後半ぐらいの方で地元の方と言うことだ。仲間2人が先発で昨日から入山していて合流して赤岳主稜を行くという事だ。心配だった林道もチェーンを履くことなく進む事ができ赤岳山荘駐車場に到着した。真っ暗でお互いの顔もよく判らないまま、ここで登山者とお別れ。「これ、どうぞ」と私たちにアクエリアス1本とソイジョイを1本ずつ頂いた。今日は急ぐ用事もないので、私たちは目覚ましもセットせず起きたら出発しようかと決め仮眠に入る。7時前にスッキリと目が覚めて遂に出発、凜とした冷たい空気が気持ち良い。出発から2人とも初めての軽アイゼンを装着し出発、20キロぐらいある荷物が久しぶりに肩に食い込む。林道に入ると今まで見た事がない分厚い氷になった路面が続く、アイゼンがないと歩く事はできないだろう。やはり八ヶ岳だ。遠くまで来て良かったと思った。林道が終わり、沢に架かる橋を何度か渡るとネットでよく見るアイスキャンディーが現れ、赤岳鉱泉への到着を教えてくれた。人気の山だしアプローチが良く、関東関西方面から多くの登山者がいると予想していたのですが登山者の姿は殆どなく、夏に見た人人人テントテントテントではなく、真っ白でとても静かだ。少し意外で嬉しくなった。よく考えたら今日は木曜日、平日だもんなあ~とOと笑う。早速、テン場代を申込みに行くとコロナ対応で、1張り2,000円ではなく、1人2,000円という事、2人でテントで寝て1日4,000円也。。。出発の時にも駐車場代を4日分4,000円を払い、ドンドン吸い取られていく。さすが都会の山は違うなあと思いながら渋々払う、あと2日いる予定なのでテン場代だけで2人で12,000円、少し高すぎる気もするが、まあ仕方ない。テントは3張りしかなく、どこでも張り放題、3日間のベースキャンプになるので、バッチリ雪面を並行にし、竹ペグでピンピンにテントを張った。テントを張り終わっても、まだ時間は10時、天気も良いし一旦、ベンチに座りアイスキャンディーに登るパーティーを見ながらビールで乾杯。2本で1,000円、また徴収(笑)休憩後、小同心と中山乗越の分岐まで確認に行く、両ルートとも、しっかりとトレースがある事を確認。暗いうちの出発でも問題はないだろう。偵察から帰ってきても、まだ正午になったばかり、16時から夕食とし、それまでは自由時間にして、お互いノンビリと過ごす。食事は半年間、北穂高の山小屋で働いたOの当番、名前はないが兎に角、大量の具が入った鍋を2人で頑張って食べた。大量のウィスキーも、1日目でだいぶ呑んだ。20時頃、消灯。いつもながら1日目の夜は寝付きが悪い。翌3時起床、いよいよ登攀日だ。昨晩の鍋にご飯を入れ、雑炊をかき込み狭いテントの中で素早く準備を整える。予定より15分ほど早く出発、ヒリヒリするような寒さもなく暗闇の中山乗越を目指す。下見済みなので、予想以上に早く乗越に着いた。少し休憩し、いよいよバリエーションルートに入る。数日前ぐらいのトレースを辿り、森林の中を抜けて行くと木々が少なくなり森林限界を超えた頃に1ピッチ目の岩場が見えてきた。岩に雪は全くと言っていいほど付いてない。岩壁手前の短いリッジを気をつけて越え岩壁下部に着いた。空は蒼く、北アルプス、中央アルプス、南アルプス、御嶽山と全てが見える。この景色を見るために遠くまでいつも来ているのかも知れない。登攀準備を開始、ダブルロープを結びアックスは1本はザックにしまい、1本は直ぐ取り使えるようにハーネスへ掛ける。いつものように1ピッチ目取付でジャンケン、勝った方が1ピッチ目のリードを行くのが決まりだ。最初のピッチは、少し難しそうなので内心、ジャンケン負けたいなあ~と思いながらジャンケン!Oの勝ち、私の負け!思わずニヤリと笑ってしまった。いよいよ登攀開始、アックスは使わず、分厚い手袋に12本アイゼンでの登攀だ。人気ルートだけあって、ペツルのハンガーを追って行けば良いのだが、連打してある程でもなく、程よい緊張感のあるルートだ。1ピッチ目は右に少し逃げると簡単に抜けられるのだがOは正面突破の難しいルートに進んでいく。スルスルとロープは伸びビレイ解除のコール、私も登り始める。最初の数メートルは少し難しい感じはしたが手も足もしっかりあり、なにより岩が安定している。大山の岩壁とは大違いだ。2ピッチ目は最初のトラバース部分が足掛りが少なく少し緊張感があるが越えると雪面となり、すぐに終わった。そこから約200mの雪面を時々、支点を取りながら足を合わせ登って行くと第2岩稜帯に到着。見上げるような岩壁だ。景色も良いし、後続の3人組のパーティーも追いついてきそうにないので、ここでゆっくり休憩。相変わらず最高の天気で風も柔らかい。のんびりしていると下から3人組ではなく、1-1のパーティーが上がってきたので休憩を終わりにする。事前の調べでは、ここが核心ピッチらしい、頭上、右側に見える凹角っぽい箇所の乗越部分を越えるようだ。Oがリードで登り始めると1-1のパーティーも追いついてきた。3人組のパーティーを追い抜いてきたガイドさんとお客さんだった。慣れた感じでお客さんを引き上げている。登っていくOは右の凹角の方へ行かず左の方のペツルに進んでいる。「右だと思うよ~」と下から声を掛けるが返事はなく、そのまま左上していく、ビレイをしながらガイドさんに「今、行ってるルートはどうなんですか?」と尋ねるとノーマルの右の凹角ルートより少し難しいと思うとの事、Oは1ピッチ目から難しい方のルートばかり行く(笑)それでもロープは順調に伸び、ビレイ解除のコール、皆が行ってるルート登ってみたかったなあ~と思いながらロープに従って登る、全体的にそうなのだが、やはり大山と違い岩がしっかりとしていて安心感があるし、多くの人が登った痕跡があり必ず足を置ける場所があるはずと考えながら登るので、そこまで難しいとは思わなかった。核心らしき箇所を越えると、もう最終ピッチだ。事前の調べでは最終は、なんてことないピッチ。Oに先にピークを踏ましてやろうと思い、Oに譲る。すると、またもや難しそうな、あまり人が行っていないようなルートに進んで行く(笑)やっぱり、自分で行けば良かったと思ったが、まあしかたない。折角、持ってきたカムを使いながら蒼い空の方へ消えて行きビレイ解除のコール、セカンドで登り始めるが、ここが一番、難しかったかもしれない。核心を越えると、もうそこが最終の終了点だった。簡単ルートから登ってきたガイドさんと同時に頂上に着いた。ガイドさんが慣れた感じでピナクルを支点にお客さんを引き上げ、暫く談笑して写真を撮り合いお別れ、時間はまだ9時である。出発前に数人から中山尾根は抜けるのに時間がかかる可能性があるので気をつけろと言われていたが天候のおかげもあり取付から約2時間半ぐらいで終わってしまった。さて、これからどうしようである。元々の予定は地蔵尾根を下り、行者小屋経由で帰る予定だったが、さすがに時間が早すぎるし稜線上も穏やか、今日のうちに小同心も片付けてしまおうかとも考えたが明日の予定が困るので縦走して横岳を越えた鞍部から大同心へ向けて下降し、小同心の取付の確認と大同心の偵察をする事にする。縦走路はどちらへ向いても絶景で、ずっと留まりたい気分だ。急ぐ必要もないので何度か腰を下ろしながら横岳に向かう。特に危険箇所もない。横岳で休憩後、下降地点に向かう、ここからはリッジや岩稜帯が少しあり注意が必要だが、夏道用の鎖も所々に露出しているので遠慮無く使いながら進む。下降地点であろう雰囲気の場所を見つけ、覗いてみると大同心へ続く明瞭な踏み跡と雪面にはトレースが残っている。ガレ場を少し下りトレースを下って行く。途中、二箇所ほど危険な箇所がありクライムダウンとラッペルで下ると大同心の基部へと着いた。大同心の基部からトラバースをすると小同心の取付に行けるだが、かなりの急斜面のトラバースである。バンド状の処にはトレースは残っておらず、沢を横切り直上する感じで少数のトレースが残っている。トラバース中になに
かあると、かなり危険な事になるような斜面だ。明日の雪の状態を見てトレースを辿るかバンド状の場所を行くか決めようと決める。大同心にちょうど、2人の白人パーティーが取付で登攀の準備をしていた。日本語も堪能でビレイヤーと談笑しながら見学をさせてもらう。そこまでではない感じのルートで我々でも登れそうだ。蒼い空に突き上げる岩峰に登っていく姿は格好良かった。そこから赤岳鉱泉までの下りは凄い急坂が続き、明日の朝、ここを登るのかと思うとウンザリした。12時過ぎに赤岳鉱泉に戻ってきた。早朝から行動と寝不足で少し疲れた感じもするので、また16時まで自由行動にしたが2人ともテントに入って眠ってしまった。16時前に目が覚めて食事準備、前日より更に大量の具が入った鍋になってしまい、2人で必至に苦しみながら全部食べた。広島に帰ったら体重が増えているだろう。19時ぐらいに消灯、さっきまで昼寝していたのに、またよく眠れた。翌朝も3時起床、5時出発予定だったが、珍しく2人とも寝坊。起きたら3時50分だった。昨日のペースを考えると、そう慌てなくても大丈夫そうなのでスパゲティを茹で、珈琲もちゃんと飲んで5時40分に出発、昨日下った急登を登り、1時間半ぐらいで大同心の基部に着いた。ここからが少し危険ゾーン、2人で相談しロープを一杯に出し、コンテでバンド状の箇所を進む事にする。もし、落ちても斜面下部にある木に引っかかりそうなので命の危険は無さそうだ。遠目から見た時よりトラバースは難しくなく赤岳鉱泉から2時間ほどで小同心クラックの取付に着いた。下方からは誰も来てないし、しばらく休憩し登攀準備、ビレイ点は埋まってるのか、探しても見つからないので地面の岩にスリングをかけビレイ点を作る。1ピッチ目も2ピッチ目もⅣ-、O曰く、2ピッチ目の方が難しいと思うとの事、リードジャンケンは、またもや私の負け、Oが1ピッチを登攀開始、最初のハンガー支点までが遠く核心とガイドさんに聞いていたが岩もしっかりしているし不安なくロープが伸びていく、30m手前ぐらいでビレイ解除のコール、2ピッチはチムニーからのクラック、大の字になる感じでチムニーを登りクラックを探すが、よくわからないまま終了点に着いた。3ピッチ目O、最初の乗越部分が少し怖い、力技で抜ける感じだ。そこを抜けると簡単な岩稜に出て登っていくと小同心の肩に出た。天気も良く無風、時間も早いし、のんびり休憩後、コンテで最後の岩壁を目指す、最後はOに譲りセカンドで登っていくと、いきなり横岳のピークに出た。Oが嬉しそうに横岳山頂の標識でビレイ点を作って引き上げている。そして、絶景のピークに立つ。遠くには富士山が見える。「Yさん、I君、また来たよ~」と声に出して言った。2人で握手し写真を撮って行動食タイム、時間はまだ10時だ。絶景の稜線のお別れしたくない気分だったがジッとしてると寒くなってくるので、しかたなく下山開始。時間もたっぷりあるので昨日、偵察した大同心を少しだけ登ってみる事にする。昨日と同じルートを下り、危険箇所はロープを2本出して50mを一気にラッペルで下りた。大同心基部に到着し昨日、白人パーティーが登っていた同じルートに行くと男女のパーティーが取付で準備をしていたので落石に気をつけながら取付で待機、元々、予定はしていなかったので1ピッチ目だけ登りラッペルで下りようと決め登攀開始、予想通りあまり難しいルートではなかったが、なかなかの高度感で気持ちいい。1ピッチを慎重に登りラッペルで撤退し、また赤岳鉱泉まで一気に下山。昨日より疲れもなく、2人とも元気満々だ。1つ気になるのは夜から天気が悪くなるという予報だ。しかも雪ではなく雨、翌日の早朝に下山する予定なので、雨中下山になりそうだ。今日のうちに下山してしまうか?と半分冗談、半分本気で話しながら赤岳鉱泉に13時半頃到着。まだまだ良い天気で日差しが眩しい。予定のルートの完登を祝いビールで乾杯、最後の夜は初めての赤岳鉱泉のステーキ2,500円と決めていたので17時までする事もない。ユースのLINEに無事下山報告を入れたいのだが、この日はどうも電波が悪い、電波を探し、あちこち移動するが通じない。小屋に入り話題のWi-Fiに繋ぐが、それでも送れない。ついでに小屋で天気予測を聞いてみると夜の12時から明日は一日、雨と言うこと、テントも装備も濡らしたくないし、でもステーキは食べたいし、もう予約済みだ。悩んだあげく両方を叶える方法に決定、今からパッキングして、すぐに出発できるように整え17時からステーキを食べて完全に日が落ちる前に林道まで下り、ヘッデン下山、テン泊代も一日分浮くし、下りてしまおう!と決定。15時頃からテントを畳み、パッキングし16時から小屋に入り、Wi-Fi接続と格闘しながらステーキの時間を2人で待つ。なんとかWi-Fiがつながり下山報告とヘッデン下山する旨を報告。幸い、少し早くステーキ時間がやってきたのでコロナ対策バッチリのテーブルで美味い美味いと言いながらご飯も味噌汁もおかわりして綺麗に平らげる。元を取るため、Y・Oはご飯3杯、Oは6杯食べようと言っていたが、結局2人ともおかわり1回だった(笑)やはり昨日、食べ過ぎたようだ。誰よりも早く食堂を出て、日が落ちかけた赤岳鉱泉をヘッデンを付け早足で下山開始、ちょうど林道に出た頃に真っ暗になり、しかも予定より早く、小さな雨粒も落ちてきた。道路の氷りもカチカチではなく、やはり今日、下りて正解だったと思う。そのまま早足で下り、1時間15分ぐらいで駐車場に到着、美濃戸口まで本降りになる前に車も移動し漸く、ひと安心。久しぶりのお風呂へ入り、久しぶりに服を着替え、さっぱりして隣で熟睡のOを乗せ、交代1回で広島まで無事に帰り八ヶ岳遠征を終えました。八ヶ岳は、いろいろなスタイルの登山が1つのベースキャンプからできる素晴らしい山域でした。今回、登ったルート以外にも、気になる場所もたくさんある。きっと又、行く事になるだろう。その時は蒼い空に突き上げる大同心のドームにチャレンジしたい。