ユースクラブ 7月例会 <北岳バットレス 第四尾根>
【日程】
2019年7月27日~30日
【行程】
7月27日(土) 福山SA集合=28日芦安駐車場(中央道経由)
7月28日(日) 芦安駐車場7:10=8:00広河原8:10~11:10白根御池小屋12:15~二俣12:40~バットレス沢13:20~
C沢D沢5尾根への取付14:05~16:00白根御池小屋(泊)…下見登山
7月29日(月) 白根御池小屋3:00~二俣3:40~5尾根支稜取付5:30~横断バンド7:10~4尾根取付9:05~
マッチ箱懸垂P11:45~トップアウト14:20~北岳山頂14:45~肩の小屋15:10~白根御池小屋16:40(泊)
7月30日(火) 白根御池小屋7:25~広河原山荘9:30~9:40タクシー乗り場10:15=11:00芦安駐車場=広島(静岡経由)
【参加人数】4名
【登山概況】(T.Y)
少し前の先輩の記録を読んでから気になっていた北岳バットレス第4尾根。挑戦したいと思っていたタイミングでY.Oさんから声をかけられ二つ返事で答えた。それから早い時期にメンバーが固まり、このルートの経験者がいない中で、目標に向けて準備を積み重ねた。
入山前日に台風が本州に上陸。勢力はそこまで強くないものの大雨が予想され、南アルプス林道は通行止めになる。また、入山日とアタック日は一応晴れの予報だが、午後の早い時間帯から雷を伴う雨が予想されている。期待と不安が交錯する中、車で一路現地に向かう。道中は雨脚が強まることもなく芦安駐車場に到着。空は晴れているが、林道閉鎖の開通待ち。2時間遅れで、広河原へ向かう乗合タクシーに乗り込む。
初日は、白根御池小屋の前にベースキャンプを設営し、取付きまで偵察。大樺沢二俣からは、雪解けが進み、夏道を行く。事前に二俣からヒドンガリー、バットレス沢、C沢(水流あり)、D沢とあり、D沢を少し遡り、CD間の尾根を登ると頭に入れて来た。がしかし、C沢までは順調に同定できたが、D沢らしきものが見つからない。道標のある付近の沢(入口上部にワイヤーが張ってある)に来て、他に沢らしきものがなかったので、そこを登るが、どうも違うようである。見通しが効いていたので、尾根を越え、沢を越え、それらしき方角に行き、取付きに到着した。正解はC沢をすぎてすぐの沢でない場所に、割と明瞭な踏み跡があるので、そこを辿ればよかった。ルーファイ核心と考えていたが、初日から間違っている。先が思いやられる。
下部岩壁は、ところどころ濡れている。そして結構脆い。雨がポツポツと降り始め、程なく雷の音も遠くから聞こえるようになったので足早にベースキャンプに戻る。不安の方が大きくなる偵察であった。夕方にかけて強く雨が降ったが、寝不足と疲れから、日が暮れる頃には皆、夢の中であった。
翌日、朝2時起床。満点の星空。二俣では過去見たことのない、明るく長い流れ星を見る。前途洋々だ。日の出のタイミングくらいで取付きへ到着する。先行パーティは2パーティ、後続に2パーティ、平日の月曜日ではあるが、盛況である。想定したとおり、一番登りやすいと言われている第5尾根支稜からT.Y-N.I隊、Y.O-A.T隊の順番で取り付く。
【下部岩壁(第5尾根支稜~Dガリー)】
・1P目(リードT.Y)
他のパーティはD沢の壁に向かって左側の直上するラインで登っているが、私たちはDガリー大滝から窪みを左上する。中間支点は見当たらないので、途中カムを1箇所だけ決める。難しくはないのでアプローチシューズのまま登った。回り込んだところのテラスが終了点である。
・2P目前半(リードN.I)
スラブでホールドも適度にあるが、リードはアプローチシューズで登るには怖かったようだ。途中でクライミングシューズに履き替える。立木のあるところでピッチを切る。中間支点は豊富にある。
・2P目後半
緩やかなリッジ。簡単に見えたので、確保なしでロープを引き、Dガリー大滝上部のわりと広い緩傾斜地へ。
・Dガリー上(リードT.Y)
ここから横断バンドまでは、もう1ピッチ(40mくらい)。ぱっと見、左右2箇所登れそうなルンゼがある。先行パーティーが登っている、右のルンゼを登る。残置支点・カム(キャメロット1,0.5)を入れるクラック共豊富だが、シングルロープは流れを考えないといけない。
【横断バンド】(リードN.I)
終了点からは少し右上すれば、横断バンドに出る。アプローチシューズに履き替え、念の為スタカットですすむ。バンドはしっかりとした道であり踏み外さない限り大丈夫だが、下に落石を落とさないように慎重にすすむ。ロープがほぼ一杯になる所、ブッシュ帯の少し手前でピッチを切る。
【第4尾根主稜の下部岩壁】
ブッシュ帯に入るとすぐに踏み跡がCガリー方向と鋭角に曲がる主稜方向(下部岩壁)に分かれる。Cガリーを詰めたほうが時間は早いが、主稜は登攀意欲をそそるクラックがあり、T.Y隊は下部岩壁へ、Y.O隊はCガリー方面へと分かれた。
・1、2P目(リードT.Y)
出だし、乾いていればそんなに悪くはないが、所々で濡れている。慎重にバランスを取りながら、最初のカムを決めるまでが緊張する。10~15m登るとピンが2本打たれたビレイ支点となる。この上のテラスまでロープを伸ばせそうだったのでそのまま2P目に入る。きれいな縦クラックがテラスまで続いている。残置支点はほとんどないので、カムを順調に決めながら登っていくが、ここぞという場面で弾(カム)不足に陥る。仕方なくサイズの合わないカムを一応セットし、思いっきて登るほかなかった。何とかクリアすると、残置カムを発見。クリップし、緊張が一気に解れる。ハングした岩が正面にあるテラスに到着する。ロープの長さは十分足りたが、ギアの数を考えるとピッチを繋げて登るべきでなかった。(体感グレード5.7)
・3P目(リードN.I→T.Y)
ハング岩を右から巻き、右のスラブを登ると、明瞭な踏み跡に出る。これを左に進むと、終了点。Y.O隊が4P目を登っているところだった。Cガリーからここに通じる道もあるようだ。
・4P目(リードT.Y)
流れを考え、10mほどで短く切る。
・5P、6P目(リードT.Y)
正面のリッジと右のルンゼを登るラインがありそう。リッジから登る。浮いてそうな岩が多く注意が必要だが、楽しいピッチ。時間節約のためつなげ、ようやく主稜取付きテラス到着である。時間は9時30分。予定より1時間遅れ。昼から雷の予報。うかうかしてはいられない。
【第4尾根主稜】
・1P目(リードN.I)
クラックにフットジャムを効かせて登る。左上のピトンにクリップできれば一安心。クラックを越えると快適なリッジ。
・2P目(リードT.Y)
ハーケンに導かれて易しいスラブを登る、バンドを右に登ると終了点。
・3P目(リードT.Y)
通称「白い岩のクラック」だが、目立つほどクラックはない。快適な登攀を続ける。
・4P目(リードT.Y)
リッジを登ると、少しだけ広いテラス。左側からは城砦ハングが見え、先行パーテイが苦戦している声が聞こえる。
・5P目(リードT.Y)
三角形の小垂壁。上部にフィンガーサイズのクラック。ここも難しい。垂壁を越えると快適なリッジでマッチ箱の頭へと到着する。
・マッチ箱の頭から懸垂下降
奥にある幾重にロープが巻かれた支点を使い、Y.O隊のロープで全員懸垂下降し、再び安松隊が先行する。雲がもくもくと湧き上がり、視界が悪くなる。
・6、7P目(リードT.Y)
クラックのある凹角からのスラブ。スラブはツルッとしているが、意外と滑らない。ロープを60m一杯伸ばし、ヌンチャクを使い切り一気に枯れ木テラスまで到着。遠くで雷の音が聞こえる。
・8P目(リードN.I)
ナイフリッジのトラバース。怖さはあるが、しっかりと手が持てる。途中、切れ落ちている所を跨ぐのがまた怖い。
・9P目(リードT.Y)
いよいよ最後のピッチ、通称「城砦ハング」。雨粒を感知し気持ちも焦る。A0は封印してきたが、核心のチムニーに手を置いた瞬間諦めた。濡れてフリーで越えるのは困難。A0でも難しい。アブミを持ってきて本当に良かった。残置ハーケンはグラグラや折れ曲がっているものなど、怪しいものもたくさん。カムにアブミを垂らした。チムニーを越えるまでは、持ってきたカムほとんどを使って細かく支点をとり、A0で、最後の力で乗り越える。最後の最後で一番の核心だった。
アブミ、カムを残して(テントが隣だった後続パーティにも、アブミ等を残した。お礼に高級缶ビールを一人一本頂く。)、大田隊も登りきりトップアウト。互いに健闘を称え合う。
少し進んでロープを解除。お花畑に癒やされながら、踏み跡を辿ると登山道に合流。北岳山頂を経由し、肩の小屋でのビールを我慢して、途中少しだけ雨に打たれるも、無事ベースキャンプまで降りる。
登攀はポイントで少し難しいところが出てくる以外は、快適で景色を楽しめ、残置支点の間隔も悪くはない。だが、やはり高所である点、アプローチも含めた体力、困った時の判断、対応力など総合力が試される。
Y.Oさんは、今回計画を詳細に練ってくださった。山行の経験も豊富で頼りがいがある。N.Iさんは、途中少しバテていたが、完登するという精神力はすごかった。A.Tさんは、体力が凄い。計画した頃は、ロープワーク等の不安があったが、本番はとてもスムーズにこなしていた。
反省すべき点も多くあったが、しっかり準備してチャレンジできた成果だったと思う。
【ギア】(各パーティ)
シングルロープ60m、ヌンチャク8、アルパインヌンチャク6、スリング適宜、カム(キャメロット0.3~3)、ハーケン、ハンマー、捨て縄10m、アブミ、トランシーバー(停滞時にビレイヤーが不安にならずとても役に立つ。)
※持参したギアは、だいたい過不足なく使用した。
【感想】
(Y.O)バットレスという名前に惹かれいつか行ってみたいと思っていた。絶景を楽しみにしていたがガスに覆われたバットレスとなったのは残念でしたが2パーティー4人、しっかり準備をしてきて最高の登攀になったと思う。バットレスを登って思ったのは体力と気力と岩場ですね。そこまで難しくはないのですが早朝から戻ってくるまで12時間以上の行動。トップアウト後の北岳山頂まで20分がしんどかった。アルパインクライミングは楽しい!次は何処に行こうかな。
(A.T)前日にバットレスの取り付きまで下見に行った際に、明日は本当にここを登るのかと急に心配になった。動画などで下調べをしていたが、実際に目の当たりにすると立ちはだかる岩壁に圧倒された。夜になると雨が降り明日のアタックは難しいと少し諦めていましたが(内心ホッとしましたが…)、アタック当日の未明から天候が回復し少しずつ岩が乾いてきた。取り付きまで到着するとすでに2パーティーが登り始めていた。
負けてられないと自分を鼓舞し気持ちのギアを上げていった。1ピッチ目は緊張したが、登るにつれてだんだん慣れて景色を見る余裕も出てきた。練習では2ピッチしか登った事がなく時間配分が分からないのと、他のパーティーもいた為、安全に留意し可能な限り急いで登った。懸垂下降ポイントでは今まで体験した事のない高度感あるラッペルだった。残り3ピッチのところで雷が鳴りだしたのでかなり怖かった。雨が降ったらビバークかなと覚悟はしていたが天候が下山までもってくれて良かった。今回、バットレスに行けたのは練習に付き合って頂いたY.Oさんの手解きのおかげです。本当にありがとうございました。
【ヒヤリハット報告】
・テント内でプラスチックのまな板が燃えてしまい、危うく火事になるところだった。
(対策)収納場所の工夫。
・疲れによるバテ、食べないことによるバテ。
(対策)持って行く行動食の中身を見直す。
・懸垂下降の手順。
(対策)指差し確認。
【写真】
<白根御池小屋のテン場 奥は北岳>
<アタック日早朝、いよいよ取り付き間近>
<マッチ箱からラッペルしてくるA.Tさん>
<バットレス全員完登>